小さな旅                           (投稿者: mr.monday 投稿:平成18年11月)



高校時代の友人を訪ねて茅ヶ崎から富士市まで小さな旅をしたことがあった。
27歳くらいの時だった。

新幹線を使うほどの距離ではない。湘南電車での旅だった。
電車が静岡に入ると、人の言葉や雰囲気が微妙に変わった。
のんびりと温かさを感じさせる。日本でも一番住みやすいと言われている静岡だからだろうか。

四国の、眉の形をした山を望む高校の部室で時を共に過ごしていた頃、二人が関東に住むようになるとは想像もしていなかった。
友人は郷土の祭りや染め物が好きだった。
しかし、友人は大学時代に付き合っていた女の子の実家に入ることになって、故郷を捨てることになった。
僕はといえば、神奈川だけから就職の内定通知があったのだ。

富士駅に友人は黄色フォルクスワーゲンで迎えに来てくれた。彼女の車だという。
初めて乗るワーゲンは意外と乗り心地が悪かった。なにせ設計はかなり古い。

3人で白糸の滝に行った。静岡らしい上品な滝だった。
それから二人のアパートに行った。
ゆくゆくは実家にはいるらしいが、しばらくは2人で暮らすらしかった。
彼女の手作りアイスを食べた。濃厚な味でおいしかった。
テレビから伊丹哲也の「街が泣いてた」が流れていた。

一晩泊めて貰った。
独身の僕には、友人が結婚しているということが不思議なことのように思えた。

翌日も鈍行列車を乗り継いで帰った。
休日の午後なのに人がほとんど乗ってなかった。僕はボックス席を占領して文庫本を読んでいた。

しばらくして、高校生くらいの少女がふたり乗ってきた。かわいい感じのふたりだった。
ボックス席が空いているのに僕の前の席に腰をかけた。
ふたりは小声で何か話して、小さく笑った。僕は、窓の外を見ていた。

列車が通過すると、ススキが金色に揺れていた。
幾つかの駅が過ぎて、ふたりは立ち上がった。そして、「はい」と小声で言って、文庫本の上にキャンディーを置いた。
僕は事情がわからずに首をひねった。
彼女たちが降りてドアが閉まった。
再び列車が動き始めて窓の外を見ると、晩秋の日差しの中にふたりがホームの端に立ってこちらを見ていた。

あの日から再び友人と会っていない。